「千歳さん……」



確かにそうかもしれない、と啓太は思った。

バレンタインの日、アリスカにチョコレートを渡された瞬間、自分は世界一、いや銀河一の幸せ者だと感じた。

それは“チョコレートを貰えた”からではない。

“彼女が自分のためにチョコレートを取り寄せてくれた”事が、堪らなく嬉しかったのだ。

例えばそれがコンビニで買った二十円のトロルチョコだったとしても、やはり同じように感じるだろうと思うのだ。



「僕……」



ゆっくりと、顔を上げる。

その表情はどこか晴れやかだった。



「僕、明日もう一度、天神モールへ行ってみます。今度はもう、大丈夫だと思うから」



「当然。この期に及んで“やっぱり無理です”とかあり得ないから」

「この幸多千歳様がわざわざアドバイスしてあげたのに駄目とか洒落になんなーい」

アンバランスでもやはり双子、揃いも揃ってわざとらしく憎まれ口を叩く二人。



「……はいっ」

蕾が綻ぶように、啓太は笑った。

数週間振りの、心からの笑顔だった。

眼鏡の奥、大きな瞳はまっすぐ前を見つめる。

春生まれの彼らしい、穏やかで優しい光を宿して。






結局オイシイところは全て千歳がかっ攫って行った訳だが、紅茶を啜る万里もBGMに聞き入る浦沢も、その口許には僅かに笑みが浮かんでいた。

静かに流れていた音楽が、“不機嫌なマイハニー”から“純真純然チョコレエト”へと変わる。



三月十四日まで、あと三日――。






【終】