「あのさ、私は本人じゃないから断言は出来ないけど、多分アリスカも相当悩んだと思うよ?」
カップの中身を一口飲んで、続ける。
「この数ヶ月田中君が色々困ってたみたいにさ、アリスカだってバレンタインにどんなチョコ渡せば良いんだろうとか、どうしたら相手が一番喜んでくれるんだろうとか、考えてたんじゃないの? だから……」
一同の視線が集まる。
「だから……だから…………ごめん、続き分かんなくなった」
「「「えぇえぇえええええっ!!!!」」」
そうなのである。
幸福体質のお陰で見事なまでにカバーされているため目立たないが、幸多万里はあまり頭が良ろしくないのである。
これには啓太と千歳は勿論、聞き耳を立てていたマスターまで大絶叫。
「こんの馬鹿姉が! 空気ぶち壊しじゃん! ちゃんと整理してから喋んないからこうなるのよ、馬鹿!」
「う、うるさいな、馬鹿馬鹿言わないでよ! 私だって真面目にやってたの!」
「馬鹿に馬鹿って言って何がいけないんですかあ!」
「だから馬鹿って言うなっつってんでしょうが! アンタだって腹黒のくせに!」
「はいはいはい、腹黒くて悪うございましたねえ!」
「あっあの、二人とも、お店の中で喧嘩は――」
「「田中君はちょっと黙っててよ!!」」
「すいませんでしたああああ!」
かくして姉妹喧嘩の幕が切って落とされた。
何この展開。
浦沢さん、泣きたくて泣きたくて震える。
これでは啓太も相談どころではない。
「つまりさあ」
喧嘩が収まったのはそれから三十分後の事。
時刻は午後三時半。
啓太来店からそろそろ四時間が経過する。
蜂蜜レモンティー三杯だけで長時間居座られ、店内で姉妹喧嘩され、大声のせいでお気に入りの曲が掻き消されて、遂にマスターは悟りを開き始めていた。
「大事なのはあげた“物”じゃなくて“好きな人が自分のためにプレゼントを探してくれたっていう事実”なんじゃない? 変に格好付ける必要なんてないでしょ。プレッシャーに負けて、本当の目的忘れて半端な事するくらいなら、何もしない方がまし」
頬杖を付き目線を窓の外へと逸らして、千歳が言う。
破局騒ぎに関して多少なりとも負い目は感じているらしく、そこはかとなく気まずそうだ。

