無造作に後ろで束ねられた、ねっとりとした黒髪。

たゆたう水母にも似て、ゆらゆらと、冷たい空気の中を踊っていた。

程好く日焼けした肌は白くもなければ無駄に褐色という訳でもなく、実に健康的な印象を与える。

逞しいががっちりはし過ぎず、バランスの取れたしなやかな身体。

被うのは真新しいネイビーのジャージ。

それでも“熱血漢”という感じはしない。

きっと、爽やかな青竹色の瞳が、この男の勇ましさを絶妙に中和してくれているお陰だろう。

男らしいと同時に柔かな雰囲気を纏っているのに針一本通る隙もなく、粗さの中にも揺らぐ事なき高尚さが存在する。



それがこの、建布都という青年だった。



(――私とは全部が逆さだ)

文字通り死人のような目を伏せて、舞白は自嘲気味に微笑んだ。

じっと見ていなければ分からないくらい、薄く薄く。



「お久し振りです、“建布都”さん」



女は散りゆく桜の花弁に似ていた。

掴もうと手を伸ばしても伸ばしても、ひらりと逃れて土へと還って行く。

女は浮かぶしゃぼん玉に似ていた。

いつ割れてしまうかという恐怖を孕みながら、誰にも行方は予想出来ない。