バレンタイン・キッス

明らかに機嫌が悪い川村の様子。
でもきっとこれ以上聞いても答えてはくれない。

「…じゃあ、また明日ね」
「…ん」

いつもならここですんなり分かれる。
でもなんだか今日はぎこちなくて帰る足が止まった。

さっきからずっと無言だし、雰囲気悪く感じる。
気まずいなぁ。

シンと静まった暗道のど真ん中で、どうしたらいいものかと考えてるとふいに川村に呼ばれた。


「…あのさ、さっきも言ったけど。
あんま隙見せてんなよ」
「隙なんか…」
「もっと警戒心持って」


強く言われて言葉に詰まる。
そんな怖い顔で言わなくてもいいのに。
いつもの川村じゃないみたい。

シュンと落ち込んでると川村は小さなため息をついた後、私の前に立ち止まった。

そしていきなり髪がぐしゃぐしゃになるくらい掻き回された。

「わっ…なにするのっ?」
「佐藤いじめていいのは俺だけだから」

ちょっと意味がわからない。
さっきの話と何が繋がりがあるっていうの。


ズボッと着ていたフードを深く被らされ、握られた手。
何が起きてるかわからない中で、おでこあたりに何かが当たった気がした。

「もうっ!なにするの!」
「じゃ、また明日な。風邪ひくなよ」

フードをとって川村の方を向くともう歩き出していた。

本当になんなの。
怒ったり、心配してくれたり。

同じ時間を過ごしても君のことは分からないことだらけ。

おでこにキスをされたのを、私は知ることはなかった。