「……っ…」
動揺してそのまま電話を切ってしまった。
思わず漏れた心の声。
光梨には届かなかったかもしれない。
小さな小さな呟きだったから。
何より助けに来てくれるはずがない。
あっちはあっちで忙しいし、こんな裏路地なんて見付けられるわけない。
細い路地から入ってくる煌々とした光に目を細める。
…冷たい…、…世間。
あたしの周りだけ時が止まってるような気がした。
…変な感じ。
キラキラした世界と真逆の、闇の世界にほうり込まれたような感覚。
どれだけ手を伸ばせば光に届く?
つやつやと光る建物の壁にもたれ掛かって空を見上げた。
「…あ」
チラチラとあたしを包み込むように舞い落ちる結晶たち。
…雪だ。綺麗だなぁ。
ただ純粋にそう思う。
雪みたいに真っ白になりたい。
何故か、切にそう願った。
雪が降って来る先は、真っ暗闇ではなく、じんわりと白み始めている。
朝になったら歩いていこう、前を向いて。
昼の世界に踏み出そう。
それまで夜で居させて。
あたしの心と同じ世界に居るのはすごく落ち着くの。
白は染まりやすいが、黒は何物にも染まらない。
一度染まった黒から白へは、
戻れない――…
そんなことを思いながら静かに目を閉じた。
脳裏に映るアイツの笑顔を振り払うように首を左右に振る。
夜明けはすぐそこだ。


