暗い路地に入った時だった。
「あんた?」
後ろから聞き覚えのある声に呼ばれて振り返る。
「……久しぶり」
「そうねぇ…」
――母親だった。
ブランド物の真っ赤なドレスを見に纏いながら、ゆっくりとあたしに近付いて来る。
鼻につくキツイ煙草と酒の混じった匂いに、思わず顔をしかめる。
鼻を刺激する甘ったるい香水の匂いがあたしは大っ嫌いだ。
そういえば、…あたしのことちゃんと名前で呼んでるの聞いたことないなあ。
覚えてないだろうけど。
少し感じた淋しさは気付かぬフリをした。
最近喋ってなかったのにいきなり何なの?
あたしに用なんかないくせに。
「あんたさぁ…」
カツカツと高いヒールを響かせて近付いて来る母親に、少し後ずさる。
何も読み取れない冷たい瞳に恐怖を感じた。
「男。…住まわせてんでしょ」
「…だから?」
「ナマ言ってんじゃねぇよ!ガキが!」
母親が近くのごみ箱を思いっきり蹴飛ばした。
思わず肩がびくっと震える。
「お前。誰の金で食ってる?」
「…………」
「誰の家に住んでる?ああ?」
「…………」
「何とか言えっつってんだよ!」
「…――ッ」
太股を急激な痛みが走った。
母親があたしを蹴ったのだ。
ジリジリと中から沸き上がるような痛みに、思わずしゃがみ込んだ。


