「それ以上近付くと飛び降りるから」
あたしの一言で、近付こうとしていた足音が止まる。
「ねぇ、あたしの今考えてること、聞いてくれる?」
返事は聞かずに続けた。
宙に浮いた足が、ぶらぶらと揺れる。
なぜか恐怖はなかった。
「あたしのせいでさ、二人が傷付いたよね。
家族も居て、友達もたくさん居る人の未来を傷付けた。
お兄ちゃんの夢を消した。
お兄ちゃんは医者になりたがってたんだ。
あたしの母親は、持病持っててね、小さいときはよく病院に運ばれてた。
だから…治してあげたいんだって」
そこで言葉を切って光梨を見たけど、暗くて表情は分からなかった。
真っ暗な空に一つだけ光る、一番星を見ながら言葉を紡ぐ。
「あたしが居るからそんなことが起こるなら、あたしが居なくなれば良いんじゃないかなあ。
あたしが死んでも誰も悲しまないし。
あたしには無償の愛をくれる親も、綺麗に輝く夢も希望もないし。
死ねば“償い”になるかな?」
――その瞬間。
強く抱きしめられた。
息が出来ないほど、強く。
背中越しに彼が震えているのが分かった。
「そんなこと…言うなよ……」
心底苦しそうに呟く声に心臓がきゅっと縮んだ気がする。
「簡単に死ぬとか言うなよ…」
彼は泣いていた。


