「妃崎…?」
ふらふらと光梨の腕の中から抜け出して立ち上がる。
この腕の中は安心するね。
あったかくて、どこまでも優しいんだ。
ずっと離れたくなくなっちゃう。
でも“絶対”じゃないんだよ。
この腕に安心感はあっても、ずっとあるという保証は、どこにもない。
――カラカラ…
薄っぺらい音を立てながらベランダへと続くガラスの扉を開ける。
まるであたしの存在価値を表すような音。
自嘲しながら外の世界を眺めると、真っ暗な闇で。
ただ、小さな星たちがあたしを嘲笑っていた。
「あはははは…っ!!」
「妃崎…?」
「あんたさぁっ…さっきから『妃崎』しか言ってないじゃん。何?バカ?
ああっ…おかし…っあははは!」
「何言って…」
なぜか笑いが込み上げて来る。
底から底から出てくる笑いは、後を絶つことを知らない。
あたしは寂しさを紛らわすために
皆と違う、惨めな自分を感じないために
自分は違うんだと。
周りの奴らとは違うんだと。
驕って。
世間を見下して。
存在価値を確かめた。
何か言いかける光梨に背を向けて、ベランダの壁に足をかける。
「おいっ、何してんだよ!」


