「ほら」
あたしが降ろされたのは、人気の少ない場所にある一つのベンチ。
「へ?」
からかってたんじゃないの?
マヌケな顔をしてるであろうあたしを見て、クスッ…と光梨は綺麗に笑って言った。
「飲み物買ってくる」
…心配……してくれてたんだ。
「ぁ…ありがと」
「いい子いい子」
子供みたいに頭を撫で撫でしてくる彼に、不思議と嫌な気分にはならなかった。
…光梨は
バカで、
変態で、
女好きで、
なのに
どうしてこんなに
胸がドキドキするんだろう…?
離れていく背中を見ながら考えていると、声をかけられそうになる。
「あ!ねぇちゃ…」
だけど、言葉は続けられることはなく
――グサッ…
不快な音が響いた後
「――ッ!!」
「…っ!?」
真っ赤な飛沫が空を舞うのが見えた。
話し掛けようとした男は、断末魔に苦しむことなく、重力のままに落ちていく。
真っ青な空に不似合いな真っ赤な血が彼からゆっくり流れ出す。
すべてが、スローモーションに見えた。


