「バイトの後輩で、うちの大学の一年下なんだけど、勇躍君っていう子が居て」
そこまで言うと
「さっき居たイケメンだろ、那智じゃない方の」
と楓がすかさず付け足してくれた。
「そうそう!楓は会ったことあったよね」
「…うん」
もう湯気の立っていない温いコーヒーを流し込んで、咳ばらいをした。
「えー、で、勇躍君の元カノが紗耶香さん。
紗耶香さんは手に入れるためには何でもするらしくて、勇躍君の幼なじみは骨折…」
「ぅえっ?」
「何、楓。汚い」
「あっ…ごめ…」
いきなり飲んでいた水を吹き出して、慌ててふきんでテーブルを拭いている。
「とある日、勇躍君にバイト帰りに送ってもらってて、途中で寄ったコンビニに勇躍君はお手洗いに行ったのね。
で、駐車場で待ってたら横の茂みがガサガサって…。
するといきなり紗耶香さんが出てきて、あたしを刺そうとしたの。
…勇躍君が走って来てくれて、動揺した紗耶香さんはどこかに行っちゃったんだけどね」
「そこを俺は見た、ってことだよね」
「…多分ね」
静かな沈黙が続く。
冷房でこの空気も流してくれたらいいのに。


