「…あいつ、イカレてるよ」
颯が俯いたままポツリと零した小さな声。
聞き取れたけれどあたしは聞こえなかったふりをした。
何も返す言葉が出て来なかったから。
「…俺さ、見ちゃったんだよねー。あの日、コンビニから走って出て来るあの女」
「…え?」
颯の目がきらりと光ってあたしを捕らえる。
その強い瞳から、もう逃げられないと悟る。
「それって……」
考えるそぶりをしていた楓の顔色がどんどん優れなくなっていく。
「俺、一週間ほど前、紗耶香を抱いてるときに…」
あぁ、チクって胸を細い針で刺された感じ、あたし知ってる。
もうそんな風に感じる資格なんて微塵も残ってないのに。
「愛してるよ、亜里沙…って言っちゃったんだ」
「「ぇ……?」」
どういうこと?


