「あ、お金これで足りるよね?」


テーブルに野口英世を二枚置くと、口元を片側だけ吊り上げながら、立ち上がる。


カタッ…と小気味よい音をたてながら立ち上がったその背中に思わず声をかけた。




「あのさ…っ」




その時はただ、亜里沙を守りたい一心だったんだ。


前にも亜里沙を俺のせいで危険な目に合わせて、守りきれなかったことを何より悔やんだことがある。


いつか、俺のせいでまた君を傷つける危険性を分かっていたのに、君を手放さなかった罰が今。

下ってるんだ…、と思った。


今度こそ、俺が守らないと。


あの、皆を笑顔に出来る彼女の笑顔を守らないと。




その思いだけがそのときの俺を突き動かしていた。




「交換条件があるんだ」


「…交換…条件?」


「俺はあいつと別れてお前と付き合う。……だから、あいつには指一本触れるな」


「…約束、忘れんじゃないわよ」