「わり、ちょっと電話」
隣の女に一応断って席を立って店の外に出る。
夏特有の生温い風が横をすり抜けた。
湿気を含んだあまり気持ち良くない空気が体に纏わり付いて、少し顔をしかめる。
「もしもし…?」
『……』
「……もしもーし?」
『……楓』
――ゾクッ
冷たい何かが背中を縦に流れる。
ふいに寒気がしてブルッと身震いした。
「…何?」
『…来て』
「今ちょっと出てるんだけど」
『…来て』
この道を選んだのは俺だ。
亜里沙を幸せにするために選んだ道で、
亜里沙を俺のせいで不幸にさせないために選んだ方法だ。
俺の傍に居ると、彼女はきっと傷付く。
これは、きっと。それを分かっていて彼女を離したがらなかった……己への罰だ。
「…分かった」
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