――ガシャンッ


勇躍くんが走ってきたのに気付いた紗耶香さんが動揺してナイフを落とす。


「何してんだよっ!」


彼が走ってきた頃にはもうそこに、彼女の姿はなかった。




「大丈夫ですか!?」

「……ぅ」


彼に尋ねられても、恐怖のためか口が震えて喋れない。


足がガクガクと震え、心臓に手を当ててみれば壊れんばかりに鳴り響いていた。


勇躍くんが来なければあたし…今頃……。




「もう大丈夫ですよ、どこか痛いところはありませんか?」

「……も、平気」


しばらく背中をさすってもらうと、ようやく平常心を保てるようになった。


彼に笑いかけると、ホッとしたようにため息をつく。


心配かけて…ごめんね?




「なんでだろう……楓はもう、あの人のものなのに」

「あいつは…紗耶香は……手に入れるためなら何でもするから」


気をつけて下さい…と言った勇躍くんに手を振りながら家に入る。



彼女は何でいまさら……




考えているうちにだんだんと瞼が落ちてきて、闇の中に引きずり込まれるのを感じた。