生温い風があたしの恐怖心を煽る。


前にはギラギラ月光を浴びて輝く凶器と、








ーー…紗耶香さん。




恍惚とした笑みを浮かべて一歩、また一歩とあたしの方に歩を進める。


狂喜に似たその表情に足がすくんだあたしとの距離はどんどん縮んでいくばかり。




「あんたが居るから…」




そう囁いた瞬間、彼女が手に持つナイフが天に翳(カザ)された。


ギラリと光ったそれは上から真っ直ぐに振って来る。




逃げなきゃ。

逃げなきゃ。

逃げなきゃ、コロサレル。




分かっていたのに、全てがスローモーションに見えて。


まるで自分だけ見えない時空の中に居るような気がして。















「亜里沙さんっ!」


「勇躍…っ」