『今日……紗耶香のお母さんが倒れたんだ…』
『サヤカ?』
『……ぁっ…』
呼び覚ましたくない記憶が繋ぎ合わさっていく。
紗耶香………彼と同じ学校で、彼の一つ上で、ミスコングランプリで……きっと、彼の大切な人。
あたしなんかより、ずっとずっと良い女。
こんな醜い感情を持つあたしよりもずっと。
現に彼はあの人を選んだから。
「どうしたんですか?」
「……ぁ」
一瞬で現実に引き戻される。
「…あたし、その人に彼氏を捕られたの」
「ぇっ」
勇躍くんの目が驚きのためか大きく見開かれる。
「まぁ、あたしに魅力が無かっただけだろうけど」
あはは…と笑うと、ガシッと肩を強く捕まれた。
「な、何?」
「何もされてないですか!?」
「ぁ…うん」
するといきなり、安堵のためかその場に崩れる彼。
「大丈夫!?」
「あ、すみません」
手を貸して立ち上がった彼を見ると、本当に心配してくれていたことが分かる。
少し心があったかくなった気がした。
「もう、真っ暗っすね」
「…だね」
ふと空を見上げると、厚い雲に覆われて月が見え隠れしている。
「帰らなきゃ」
送ってくれると言う、勇躍くんの言葉に甘えて頼ることにした。
あまりにも真っ暗で、少し怖かったから。
それと、彼を思い出した日に一人で居ると今まで堪えてきたものを吐き出してしまいそうだったから。
この本能的な行動に安堵するのはもう少し後だったりする。


