「浮気されて、その実兄にもダマされた…と、こういうことですよね?」
彼の質問に答える代わりにコクリ…と頷いた。
動揺することなく、同情することもなく、ただ淡々と事実を整理する彼を人事のように見ていた。
「僕も同じですよ」
「え?」
「…亜里沙さんとおんなじですよ。浮気されて捨てられて」
「……う、そ…」
勇躍くん、そんな素振り見せなかったじゃない。
ずっと笑顔で何も変わらず。
…いや、何も変わっていなかったからこそ気付いてあげるべきだったのかもしれない。
その笑顔の仮面の下に潜む痛みを。
「…彼女、紗耶香…って言って、亜里沙さんの一つ上、俺の二つ上の美人な人でした」
「…サヤカ…?」
どこかで聞いたことのある名前だと思った。
どこかで……。
その“どこか”は分からないけれど。
知っているのか…と尋ねる彼に小さく被りを振る。
何かが腑に落ちないまま、黙って話を聞き進めることにした。


