「俺はアイツに何か劣っているとも思わない。だけど表に居られるのはアイツだけ。それがとてつもなく憎かった」


そう…と呟くことしか出来なかった。


あたしには彼の気持ちが分からないから、むやみに踏み込んだりしたくない。




「だけど……アイツが欲しくて欲しくて…でも、手に入らなかったものが一つだけあるんだ」


楓が、持っていないもの?


いつだって彼は希望と自信に満ちていたはずだ。

その彼が手に入れられなかったもの?


その時背中に回った腕に力が篭る。

痛いほどに抱きしめられる。




「俺はそれを手に入れたかった。手に入れたらきっと俺はアイツに勝ったことになると思ったから」


少し力を抜いて目と目が合うよう颯は腰を屈めてあたしを覗き込んだ。


「………それ…、間違ってるよ…」

ぼそりと呟いたあたしの言葉の真意が分かったのか、分かっていないのか、彼は小さな微笑みを見せただけ。






お願い、もし…もし……勘が当たっていたのなら……


颯と過ごした時間は全部嘘だったのだろうか。




あんなに楽しかった日々も


あんなに嬉しかった日々も


彼の中では“ウソ”として処理されるのだろうか。















「…俺は亜里沙が欲しい」