「……それでさ」
あたしの泣きそうな顔に気付いた颯はそっと手を引くとあたしを優しく抱き留めたまま、話し出した。
この優しさが、今は辛い。
「俺、憎かったんだ…アイツが」
「憎…い?」
こんなにも優しい彼が人を憎むことなんてあるんだろうか?
ふと、そんな疑問が過ぎった。
「俺はアイツよりも一年先に生まれたのに、アイツの母親と親父が籍が入ってるからって…俺はずっとヒソヒソと生きてきた」
あぁ、そうか…と。
哀しみよりも同情よりも共感が強く沸いて来る。
あたしも父親は他界したと聞いていたが、本当は知っている。
不倫して家を出て行ったことを。
「なのにアイツはのうのうと生きていて、両親が死んだだの悲劇の主人公ぶって…何だってんだよ!」
颯の目は怒りに満ち溢れていた。
いつも笑顔の彼がふさぎ込んだマイナスの感情を爆発させた瞬間だった。


