「あ…亜里沙……」
「…何でもない」
ばっかみたい。
アイツと別れてから今まで泣いたことなんて無かったのに。
何も感じなかったはずなのに。
何でよりによってコイツの前で泣いちゃうんだろう。
「…あーあ、こんなはずじゃなかったのに」
下を向いて俯いているとカタッと席を立つ音がした。
そして、次の瞬間にはフワッと温もりに包まれて。
それはなぜか、懐かしい…温かさだった。
「…俺が隠しててやるから、我慢せずに泣け」
何でこんな時だけ命令形なのよ。
「…っぅ……」
……素直に聞いちゃうじゃん。
いっぱい人の居るお店で抱き合って泣いてるなんて恥ずかしい…っていつもなら思うんだろう。
でも、今はこの、颯の腕の中が心地好かった。
颯は颯で。
楓は楓。
何でそんな簡単なことに気づけなかったんだろう。
颯を楓と重ねて見てた自分に苛立ちを感じる。
颯はこんなにも優しい人なのに、どこかでいつも楓と比べてた。
ごめん、颯。
静かに涙を流した。


