「いい人だったね〜」
「いや、二割増しのあんたもなかなかよ?」
「それは亜里沙ちゃんでしょ?」
「何言ってんの?男も女も集められる驚異の集客力!」
「……この無自覚」
「なんか言ったぁ?」
隣をものすごい爆音で通り過ぎて行ったバイクのせいで聞き取れない。
聞き返しても、別に…しか言ってくれなかったが、特に気にもかけずカラオケに向かった。
「何歌おうかな〜?」
「……すっげーオンチ」
隣で個室のソファに寝転がって某猫型ロボットの初期のOPを、大音量でオンチにハミングする彼の姿。
そんな姿も様になるのがまた気に食わない。
「ん?なんて?」
「いや、何も」
「もー、気になるなぁ」
ぶつぶつ言いながらも歌い出す那智君。
しかも、オンチだし。
「お酒入る?」
「えー、那智君…酒癖悪いじゃん」
しばらく歌いつづけて、喉も渇いてきた頃、いきなりこんなことを言い出した。
「そんなことないよー」
…張本人は覚えてないだろうけど。
「お持ちしました。ビール二杯で宜しかったでしょうか?」
あたしの願いも虚しくお酒が届いてしまった…。
「飲むぜ、歌うぜぇ!!ほら、歌うぞ」
あぁ、来た。
あたしの肩に回った手を見る。
こんな至近距離でオンチな歌を聞かされる人の気持ちも考えてほしい。
キャラ崩壊してるし。うるさいし。
…でも、楽しい。
「さいっこぉおぉぉおっ!!!!あぁ〜楽しいなーーー!!」
アイツが居たら、もっと楽しかったかな。


