「ぅう〜…相変わらず苦い〜」
「じゃあ飲まなきゃ良いのに」
「だってオレンジなんか頼んじゃ子供みたいじゃん」
「カッコつけて『ブラック二つ!』なんて言うから」
あたしが那智君の真似をしてカッコつけると、彼はぷっと吹き出した。
「何で笑うのよ?」
あたしがちょっとムカッとして言うと、
「だって予想外にかっこよかったから」
「……コーヒー二つ、頼む」
「ぷっ…なんか敗北感」
こうやって他愛もない話をするのが好き。
少しだけ世界がクリアになる。
アイツを忘れさせてくれた。
「今日はどーする?」
「カラオケオール☆」
「…ちょっとイケボで言ってみた?」
「ばれた?」
そう言って舌をぺろっと出してウインクする姿は最高に可愛い。
あの…アレだ。
あたしと那智君は友達であって、余計な恋愛感情は皆無だけど、普通の子ならノックアウトもの。
鼻血ブーみたいな。現に横のテーブルの子も手元を狂わせて、床でショートケーキが皮肉に潰れていた。
「あーあ、早く出た方が良いよ」
「ん?何で?」
「なんでも」
伝票を持って立ち上がると、慌てて手を捕まれた。
「僕が払うよ!」
「いや、いつも払ってもらってるし」
腕を解き、スタスタとレジまで歩いていくと後ろをひょこひょこついて来る。
「……」
「だから良いってば!」
「僕だって男だよ!?」
「……」
「見りゃ分かるよ!」
「だったら…!」
「…あの〜…」
レジの前で言い争いをしていると、レジ打ちの店員さんに声をかけられた。
「すみません!今払うんで…」
「あっ!違うんです!いつも金曜日来てくださってますよね?」
…知ってるの?
視界に入った彼を横目で一瞥。
…そりゃ、知ってるか。
「お客様が来られると客入り二割増しなんですよ!だから特別に今回は無料で♪」
「…マジですか?」
「ありがとうございますっ!!」
店員さんにペコペコと頭を下げて店を出る。


