あたし達に背を向けて彼は歩き出した。
一歩。彼が踏み出す度あたし達の距離は開いていく。
さようなら。
ありがとう。
本当は大好きなあなたへ。
彼がこちらを一度も振り向くことの無いまま、角を曲がろうとしている。
彼の背中は頼りなく、思わず追い掛けたい衝動に駆られた。
…ああ、終わりなんだ。
そう思うと思わず泣きそうになる。
ダメ、ダメ、まだダメ。
彼が見えてるうちは泣いちゃダメ。
彼が角を曲がる。
「…―っ」
あたしは濡れることも気にせず座り込んだ。
地面がぴちゃりと音を立てて、雨が服に染み込んでいった。
冷たいよ…楓……
だんだんと下から体が冷えていく。それと比例するようにあたしの心も冷たくなって。
このまま心が凍てつけばあたしはきっと一人で立てなくなるんじゃないだろうか。
助けて…
助けてよ…
あたしのヒーローはあんただけなんだよ…?
「中、入ろう」
那智君に抱えられながら家の中に入る。
家の明かりが灯っていたことが嬉しくて、同時にあの頃のあなたを思い出して
…また泣いたんだ。


