「……」
「……何…?」
「……」
早く言ってくれないかな?
家入りたいんだけど。
今のあたしは自宅の前でまだ那智君に腕を捕まれたまま硬直していた。
だってそこに…
彼が居たから。
今。一番会いたくない人。
「ごめん」
それは何に対する〝ごめん〟?
「今日……紗耶香のお母さんが倒れたんだ…」
「サヤカ?」
「……ぁっ…」
ああ…あの写真のスレンダー美女さんね。
「で?楓クン」
「………両親を失う哀しみって俺も分かるから、だから誰かが側に居てあげなきゃ…って」
何で。どうして。
側に居る人は楓じゃなきゃダメなの?
こんな思いをあたしが持たなきゃダメなの?
「もう終わりにしよう」


