彼の瞳に限りなく漆黒に近い藍色が広がる。
透明な水面に一滴、黒のインクを垂らした時のように。
あたしはその瞳の意味を知っている。
――…罪悪感。
彼の行動の意味を知りたいのに知るのが怖くて、突き放されるのが怖くて
「…少し距離を置こう」
彼の目を見ることが出来ずに隣をすり抜けた。
別れよう…と言えなかったのは、まだ彼を好きなのと、目の前の事実を信じきれないことと、
……彼女といた彼の瞳は泣いていたから。
あたしの思い違いかもしれない。
でも、今はそう信じさせて。
じゃないとあたし、立ってられそうにないの。
下唇を強く噛んだ。
口内に血生臭い匂いが広がる。
鉄の味がぶわっと渦巻いた。
涙とともに流したのは黒い感情。
劣等感と屈辱感と…深い哀しみ。
大好きな人に裏切られるのってこんなに辛かったっけ?
胸がズキズキと痛む。
心をナイフでズタズタに切り裂かれたような。
目に見えたのなら、あたしの心はきっと粉々だろう。
服の上から胸をぎゅっと握ると、痛くて痛くて涙が溢れた。


