さっさと家に帰ろうと身を翻した。瞬間。


「…―っ」


息が詰まった。





…どうして今日のあたしはこうもツイてないんだろう。


せめてもう少し走っていれば。もう少し早く歩き出していれば。






彼に会わなくて済んだのかも…しれないのに。








あたしの眼前にはラブホテルから出てくる、仲よさ気なカップル。

楓と…写真の女の人。






__ポタリ…


あたしの目から雫が零れたのと空から雫が落ちてきたのはほぼ同時だった。




空を仰ぐと広がるのはただただ暗闇で、あたしの一番星はもうそこには無かった。




ザーザー…と雨足が強くなる。

空が泣き出した。


それでも、あたしの足は動かなかった。まるで根が生えたみたいに地面に食い込んでいる。


びしょびしょになっても、あたしの目は二人に釘付けのまま。




二人は腕を組んでいるのに、すごく哀しみに浸った顔でこっちに向かって来る。

一つ水色の傘の下で。




あなた達から見える空は青空ですか?










逃げなきゃ。逃げなきゃいけないのにやっぱり足は言うことを聞いてくれなかった。




「……あり、さ…?」




彼とあたしの視線がぶつかる。


その優しくて芯の強い目。

…大好きだったよ。