「扉が閉まります。ご注意下さい」
扉がプシューと音をたてて閉まる。
電車が動き出す。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
左右に揺られながら、電車のたてる音を聞いていると、無性に泣きたくなった。
「良かったの?」
「何が」
「皆に伝えなくて」
「……これで良かったんじゃない」
「…そう」
まるで自分に教えるように呟いた声に、母親は頷いただけだった。
何も言われないのが逆にほっとした。
「ねぇ、お母さん」
「何?」
「あたしね…この町に居られて良かったよ。楽しかった。
親友も出来てね、人を信じることを知ったんだ。
……誰かを愛することも…っ…」
「…良かったね」
泣き崩れるあたしを横から支えてくれる手は温かかった。
あたしが何より欲し〝かった〟もので、手に入ったもの。
〝絶対〟の愛情。


