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「ほら、こっちだよ」
あたしの回りは闇で覆われていて、そこで一人ぼっちで泣き続けていた。
いくら叫んでも誰も来ない真っ暗な場所のあたしに手を差し延べてくれたのは
………誰?
艶っぽくて、優しい声色。
引き上げてくれる力強い腕と、しなやかな指先。
温かい胸の中。
顔は逆光で見えないけど、あたしきっと、この人のこと知ってる。
「じゃあ」
あたしがひとしきり彼の胸で泣くと、黙ってあたしを引きはがした。
「待って!待ってよ!」
向こうに歩いていこうとする彼の背中に呼びかけるけど、振り返らずに歩いていってしまう。
ただ片手を挙げてひらひらと振るだけだった。
「待ってってば…っ!!」
走って追いかけようとすると闇に足を盗られて、膝を擦りむいた。
痛ぁ……
ただ呆然と後ろ姿を見つめていると、彼は星に吸い込まれて行った。
あの星は……
こぐま座の二等星。
白く輝く、ずっと動かぬ星はあたしの一番星。
大好きで大好きで、たまらなく愛しいのに、彼との距離は遠すぎて。
月面には行けても、星には行った者はいない。
あたしがいくら彼を想っても、彼に届くことはない。
それなら……好きにならなきゃ、良かったかな。
彼はあたしのヒーローで、
あたしの居場所だったんだ――…。
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