「…お邪魔しまーす」
そろりとあたしの後を着いて入ってきた光梨。
意外…
結構礼儀正しいんだ。
女の子たぶらかしてるくせに。
「誰も居ないから、そんな畏まらなくていいよ」
「…え?誰もって…葉月(ハヅキ)さんは?」
知らなかったんだ…
光梨の何気ない一言に足を止めた。
狭い玄関に、重苦しい沈黙が漂いだす。
葉月っていうのは、あたしのお兄ちゃん。
昔は光梨とあたしとお兄ちゃんで虫採りしたなあ…
「………」
「高三だよな?」
二つ違いのあたし達。
本当なら受験生で…
「…生きてたらね」
自分から発したとは思えないほど、冷たく低い声に自分自身で驚いた。