あの頃のあたしは弱かった。
お兄ちゃんに頼りっぱなしで、一人じゃ何も出来ない、どうしようもない子だった。
だから、言ったんだ。
『助けて』
今ならそんなこと言わない。
自分で何とか出来る。
そうしたら、お兄ちゃんは、きっと
…死ななかった。
彼は、
あたしのために死んだ
あたしのせいで死んだ。
綺麗なはずの満月が
真っ赤に染まった夜だった――…
あの日にもう一度だけやり直せたら、あたしはきっと前を向いて歩いていける。
こんな道に血迷ったりはしなかったはずだ。
だけど、もう後戻りは出来ない。
一度染まった黒は二度と白に戻れない。
汚れた人間も二度と純白には戻れない。
□■□■□
何やら廊下が騒がしい。
しかも、その歓声はだんだんとあたしの教室に近づいて来ているようだ。
「妃崎亜莉沙、居るー?」
扉が一気に開き、あいつが現れた。


