満月の夜の君に





「兄貴。絶対に絢を幸せにしろよ。絢を泣かせたら俺、兄貴に取り憑くからな」




そう言う夏くん。





「ああ……絶対泣かせない。夏海に憑依されるとかマジごめんだわ、俺」



夏夜くんは夏くんの手を両手で包み込んだ。







ブワッ……。





何度目かの風が吹いた。







夏くんの黒髪も、夏夜くんのふわふわの髪も、風に揺れる。






二人の瞳は真っ直ぐとぶつかり合い、互いに揺れる事はない。




だけど……。



「やっぱ俺の兄貴だな。俺、安心してあっちに行ける……」



動かなかったはずの、切れ長で切なげな瞳が揺れた。




……ちょっと待って。





『あっち』って……?