「うん。行くよ」
ドキドキしている胸を抑えるように、平静を装って答える私。
「俺、今日、歯医者だから休むって伝えて。じゃあ、またな!」
爽やかな笑顔で、そう言って、手を挙げて廊下へと足を進める彼の姿を目で追いながら
「またね」
と、彼に届いたか分からないくらい小さな声で返事をした。
「あっ、遠藤!部活、頑張れよ!」
教室を出る間際、振り返り、そう言って笑顔を見せる大沢くんに胸が締め付けられるような、そんな息苦しさを生む。
大沢くんが、“遠藤”って呼ぶ度、好きって気持ちは、大きくなる。
いつか
“遠藤”じゃなくて、“アカリ”って、下の名前を呼んでほしい
なんて思ってしまう私がいる。
そんなの無理だって分かっているのに
なんでって、
大沢くんは、モテるから。
私なんて、恋愛の対象として見てないから。
私は、ただの同級生だから……