だんっと足音が大きく響いた。その気迫にもリョクユは何の反応も返さない。
ただ、紅の宣言のような子どものような物言いに、リョクユは眉間に手を沿えて、ワザとらしく溜め息を吐いた。
「紅様、ワガママは仰らないでください。それでも一国の皇子ですか? 何度も言っているでしょう、国民の規範になるような人間にならないといけないと。……でないと私が勝手に決めちゃいますよ?」
「はっ! 勝手にしたら良いじゃねぇか」
「許可、しましたね?」
紅はリョクユの目が一瞬、いつになくきらりと輝いたのを見逃さなかった。
それと同時に強烈な嫌な予感と、先程自分が放った言葉を後悔する気持ちが一気に芽生える。このままでは確実に自分の不利な状況に追い込まれるに違いない。
ここは素直に謝って、自分の非を認めてしまうのが得策だろう。しかし、大変残念なことに紅はプライドも無駄に高かったのだ。そんな彼が素直に謝れるハズがない。
必死に自分と格闘している紅の隣で、リョクユは『この世で生きていた中で今が一番楽しい』というオーラを出しながら、お見合い写真を片っ端から見始めた。一枚一枚吟味しながら手を動かすリョクユと、それに待ったをかけたくてもかけられない紅の表情は面白いくらい正反対だ。
「紅様、この方はどうでしょう! 檎国の蜜柑姫! 趣味はG退治……」
「却下! 何が楽しくてキッチンの大敵を打ちのめすのが趣味の女を迎え入れなきゃならない!?」
紅はリョクユの言葉を途中で切った。キッチンの大敵……。あの黒々と光り、ときにこっちに向かって奇襲をかけてくる恐ろしい生き物。ほとんどの人間があの生き物には極力関わりたくないのではないだろうか。
そんな生き物を退治するのが趣味……。
紅は蜜柑姫が目を光らせる光景を想像して、全身に鳥肌を立てた。
「あれ? 私に任せてくださるんじゃなかったんですか?」
「け、決定権まで譲るとは言ってねぇだろ」
「ええー」
怒りっぽい紅は、リョクユの反応にカチンときたものの、特に深く追求する必要もないので、ふんっとそっぽを向いて会話を終了させてしまった。
「ではこの方は……」
「却下、却下! てめぇ、ワザとやってんだろ!」
紅はリョクユの言葉を再度、最後まで聞かず否定した。相手の趣味の欄に『○○の実験』と謎の言葉が書かれているのを見てしまったのだ。
紅の言葉に失礼ですねぇ、とリョクユは言う。
「楽しんでるだろ」紅の言葉に、リョクユは良い笑顔を向ける。その表情はとても愉しそうで、紅の言葉を完全に肯定していた。
ただ、紅の宣言のような子どものような物言いに、リョクユは眉間に手を沿えて、ワザとらしく溜め息を吐いた。
「紅様、ワガママは仰らないでください。それでも一国の皇子ですか? 何度も言っているでしょう、国民の規範になるような人間にならないといけないと。……でないと私が勝手に決めちゃいますよ?」
「はっ! 勝手にしたら良いじゃねぇか」
「許可、しましたね?」
紅はリョクユの目が一瞬、いつになくきらりと輝いたのを見逃さなかった。
それと同時に強烈な嫌な予感と、先程自分が放った言葉を後悔する気持ちが一気に芽生える。このままでは確実に自分の不利な状況に追い込まれるに違いない。
ここは素直に謝って、自分の非を認めてしまうのが得策だろう。しかし、大変残念なことに紅はプライドも無駄に高かったのだ。そんな彼が素直に謝れるハズがない。
必死に自分と格闘している紅の隣で、リョクユは『この世で生きていた中で今が一番楽しい』というオーラを出しながら、お見合い写真を片っ端から見始めた。一枚一枚吟味しながら手を動かすリョクユと、それに待ったをかけたくてもかけられない紅の表情は面白いくらい正反対だ。
「紅様、この方はどうでしょう! 檎国の蜜柑姫! 趣味はG退治……」
「却下! 何が楽しくてキッチンの大敵を打ちのめすのが趣味の女を迎え入れなきゃならない!?」
紅はリョクユの言葉を途中で切った。キッチンの大敵……。あの黒々と光り、ときにこっちに向かって奇襲をかけてくる恐ろしい生き物。ほとんどの人間があの生き物には極力関わりたくないのではないだろうか。
そんな生き物を退治するのが趣味……。
紅は蜜柑姫が目を光らせる光景を想像して、全身に鳥肌を立てた。
「あれ? 私に任せてくださるんじゃなかったんですか?」
「け、決定権まで譲るとは言ってねぇだろ」
「ええー」
怒りっぽい紅は、リョクユの反応にカチンときたものの、特に深く追求する必要もないので、ふんっとそっぽを向いて会話を終了させてしまった。
「ではこの方は……」
「却下、却下! てめぇ、ワザとやってんだろ!」
紅はリョクユの言葉を再度、最後まで聞かず否定した。相手の趣味の欄に『○○の実験』と謎の言葉が書かれているのを見てしまったのだ。
紅の言葉に失礼ですねぇ、とリョクユは言う。
「楽しんでるだろ」紅の言葉に、リョクユは良い笑顔を向ける。その表情はとても愉しそうで、紅の言葉を完全に肯定していた。

