世界には三つの大陸がある。ひとつは人間の暮らすもっとも大きな大陸。もうひとつは獣人の暮らす獣人の大陸。そして、幻ともいわれる海の大陸だ。
 最後にいたってはあまり確かな情報こそないが、それぞれの大陸の中でも最も発展しているのも人間の大陸である。

 そして、ここは人間の大陸の中でも最も力を持つといわれる五大国の中の一つ、静国。


 その静国のほぼ中央に聳え立つ大きな城の中、この国の皇子である静 紅は王佐のリョクユと頭をつき合わせるようにして話し合っていた。否、状況をきちんと説明するのなら、紅が一方的にまくし立てていた。

 が、怒鳴られている当人のリョクユは全く困った素振りを見せず、それどころか冷静に笑顔で対応している。その笑顔がさらに紅を苛立たせていることは知ってか知らずか……。

 彼らの話の内容は一言で言えば縁談。
 皇子である紅はもう十九歳である。十九歳ともなれば、許嫁がいても伴侶がいてもこの国ではおかしくない年齢なのだ。

 しかし、この皇子は短気な上、大変、扱いにくい性格の持ち主だった。『玉』の使い手なモノなので、一般人はもちろん彼の両親ですら彼を手懐けることができず、手を焼いていたのだ。
 玉とは人間の国に伝わる秘法のようなものの総称だ。各々が一様に丸く透き通った宝石のようである。それらは、個々で様々な能力を持ち主に与える。例えば、紅の赤い玉なら『炎』を自由自在に操ることができる。

 そして今、この国に居る者で彼と真正面から話し合えるのはリョクユを含む一握りの者だけ。
 が、リョクユもまた気まぐれな性格をしているため、自分の興味があることにしか手を出しない。


 紅の悩みといえば、そのリョクユがこの厄介事に興味を持たれてしまったことであった。リョクユは自分の興味範囲にはまるで鬼のごとく首を突っ込む性格の持ち主だ。

 その上、紅は知っていた。彼、リョクユの方が自分より格段に強いと。
 実はリョクユもまた、『玉』の使い手であり、体力勝負の喧嘩でも勝てず、頭脳戦でも勝てず、ましてや口喧嘩など紅には勝った思い出が皆無であったのだ。


 ただ一様に悪いヤツ、とも言えないので紅は彼を鬱陶しいとは思いつつ、無下には扱うことができなかった。正確にはしたくても出来なかったのだが。


 紅は一通り言いたいことを言い終えると、一息吐いてリョクユを挑むように見ながらこう言い放った。


「俺は結婚はしない!」