カモフラージュ

なんて思いながら、されるがままになっていたあたしに、八十島の顔が近づく。

こ、こんなところで何?何すんの?
婚約者のフリでしょ、そんなのいらないじゃん!

一人焦るあたしは

「ちょっと待て、落ち着け!」

八十島の肩を押す。


だけど八十島の顔はどんどん近づいてきて、どうする事も出来なくなったあたしは、真っ赤になりギュッと目を閉じた。


そんなあたしの耳元で

「3万でどうだ?」

八十島が囁く。

「金、困ってんだろ?」

目を開けると至近距離で八十島と目が合う。



「……困ってる」

「上手くいったらバイト代3万出す。悪い話じゃないだろう?」


口の片端を少しだけ上げて微笑む八十島は、救いの手を差しのべる天使か?地獄へ叩き落とす悪魔か?

その判断なんてつかないけれど、あたしの頭は、次のバイト代が支払われる日までと財布の中身を考慮して、瞬時に答えを出した。

「精一杯やらさせて頂きます」

スッと姿勢を戻して、満足げに頷いた八十島は

「じゃ、契約成立ってことで。よろしく」

と右手を差し出す。


「よろしくお願いいたします」

あたしがその右手を取って握手すると、ちょうど案内係の女性がやって来た。