カモフラージュ

遂にたどり着いてしまった、レストランのフロア。

扉が開くと直ぐ目の前が受付カウンターで。

『浮舟』と書かれた行灯の横に和服の女性が立っていて、「いらっしゃいませ」と、恭しく頭を下げた後あたし達の姿を目にして、ギョッとした表情に変わる。


それもそのはず。
あたし達はエレベーターの中で散々暴れまわり、そこにつく頃には二人とも衣服も髪も乱れ、にらみ合いながら肩で息をしていたのだ。

「あ、あの……」

遠慮がちにあたし達に声をかけた女性に答えたのは八十島で、

「予約した八十島です。先に来ていると思うのですが」

手首を掴まれ無理矢理エレベーターから降ろされたあたしは、その手を振りほどき何とか逃げ出そうと試みるも、扉は直ぐに閉じ、エレベーターは下降を開始した。


逃げる道を断たれたあたしはガックリと肩を落とす。

その後ろで

「八十島様。『松葉』をご用意しております。ご案内致しますので少々お待ちくださいませ」

女性が予約の確認を終え案内係りの手配をしていた。


「こっち向け」

半ば無理矢理八十島に向かい合わせにされ、乱れた着物の衿と髪を簡単に手直しされる。

初めて正面からちゃんと見た八十島は、強引な行動からは想像出来ない程、好青年だった。

優しそうな垂れた目が印象的で、高い鼻と大きめな口、浅黒い肌に真っ白い歯が光る。

割とイイ男じゃないか。