「にゃぁ」
屈託のない、愛らしい声。
「猫、ですの・・・?」
誰かが、つぶやいた。
その声に反応したかのように、猫は「にゃんっ!」と小さな声を上げた。
「淑子様の嫌がらせですの?」
「性質の悪い事を・・・」
「和宮様のことを何と思っていらっしゃるのかしら」
もともと人見知りの姉は、御所の庭を散歩するときにも輿に乗り、簾の間からかいま見るという行動をとっていた。
そのためは評判はお世辞にもよいとはいえぬ状況。
しかし和宮とは仲良く話せていたため、和宮は姉に誕生日の贈り物を聞きていたのだ。
『和宮、もうすぐあなたの誕生日ね』
『お姉様、私の誕生日を覚えていてくださったのですか?』
『ふふ、当然じゃない。私の大切な妹で、大切な友達なのよ。・・・何か、ほしいものはある?』
『んん・・・あんまりないというか、皆さん色々のものを贈って下さるので、無いかも・・・』
『そうね・・・じゃあ、誰も贈らないようなもの───動物とかはどうかしら?』
『良いんですかっ!?』
『基本誕生日に贈りはしないけど───嬉しそうな顔を見たら贈りたくなってしまったわ』
『嬉しいです!!ありがとうございます』
熙宮は和宮と淑子が仲がよいのは知っており、和宮に籠を渡した。
和宮は籠の中の猫にそうっと手を伸ばす。
よくよく見てみれば、まだ目がとろんとしている子猫。
首に緋色の紐と鈴がついている。
頭を撫でてやると、和宮の手をぺろりと舐めた。
真っ白な毛は陽光にきらきらと輝くような美しさ。
「・・・かわいい」
ポツリと和宮がつぶやくと、熙宮は微笑んだ。
「だそうですよ、皆さん。和宮はこの猫をかわいいといいました。淑子をそんなに悪く言ってやらないでくださいね」
人々は互いに顔を見合わせ、繕うようにして微笑んだ。

