「和宮様、お誕生日おめでとうございますわ!!」
「観光院様が朝廷に残していかれた百合が、またいっそう美しく年を重ねましたわねぇ」
「本当!御覧になって、和宮様の美しき黒髪!!」
「観光院様譲りですわ、憧れますこと」
「そしてあの澄んだ瞳は今は亡き先帝・任孝天皇様にそっくりですもの」
「まだ5歳の幼女とは思えぬほどの艶やかさですのね」
───誰もそんな事、思ってないくせに。
和宮が歓宮との婚約を知らされる数日前。
嘉永4年───1851年 5月10日
和宮の5回目の誕生日は、和宮が帝を兄に持つ立場という事もあり、朝廷で華やかに行われた。
このとき既に歓宮は和宮との婚約の話を聞き、和宮の顔を見るために来ていたのだが───それはまた、別の話。
「こちらは、和宮様への贈り物ですわ」
生糸、絹、着物、髪飾り───
どれもこれも美しい贈り物ばかり。
しかし和宮はどれにも興味を示さず、人々は驚愕。
「まぁ、今上帝がいらっしゃいましわよ」
美しき立ち振る舞いをする和宮の兄───熙宮こと孝明天皇。
「和宮、誕生日、おめでとう」
優しく微笑む兄に、和宮は一礼をした。
「淑子から、彼を預かってきたんだ」
───彼?
人々が動揺し囁きあっている。
「あの、布の被せられたものはなんですの?」
「今上帝は確かに、彼、と仰りましたわよね?」
「中に何が入っているのでしょう・・・」
人々がどよめきあう中、和宮は熙宮が手にしているのが何か、はっきりと理解していた。
───あの中身は、間違いない。
和宮が落ち着いた目で物に目を向けたのを確認した熙宮が、ふわりと微笑む。
そして被せられている布をはずした。
中の物は、丁寧に編まれた籠だった。
そしてその中に入っているのは───

