「和宮様、お気を悪くしないで下さいね」
部屋に戻り、夕鈴が発した言葉。
「私は別に滅入ってなどいないわ」
「本当ですか?」
「ただ───
降嫁は、私以外の人がするだけ。
私が降嫁をしないだけよ」
「和宮、様・・・」
「疲れたわ。床の仕度、今日は早めてもらえるかしら?」
「かっかしこまりました!!」
夕鈴はそそくさと和宮の部屋を後にした。
暗い暗い、夜の中。
2つの人影。
「お止めください、どうか───」
「どうしても、ですか?」
「私には、出来ません!!」
「何故・・・?」
(誰・・・?)
部屋の奥で眠っている和宮は、人の声で目を覚ました。
「誰かいるの・・・?」
眠そうな声でそう言うと、人影がピクリと動く。
和宮の意識はまた、闇の奥へと沈められていった。
「大丈夫、お眠りになられました・・・」
「よかった、気づかれてしまっては───」
そこから先は───
ひっそりと廊下で覗いていた熙宮に聞かれぬよう、風と木の葉が隠してしまった。
和宮は気づいていない。
ひっそりとした、快楽の夢。
溺れるのは、誰?

