君にもう一度逢いたかった。


「やあ、熙宮(ひろのみや、孝明天皇の幼名、和宮の異母兄)」

「歓宮!やはり来ていたのか」

歓宮は和宮を持ち上げたまま、既に天皇として在位していた兄のもとへと運んでしまった。

「・・・歓宮、その、持ち上げているのはまさかとは思うが───」

「和宮様だよ、なかなか僕に懐いて下さらなくてね。こうすれば懐くかなと」

「逆効果だな」

「何故だ?」

「和宮の顔を見てみろ」

歓宮が和宮の顔をのぞくと───

和宮の瞳は涙をいっぱいにため、歓宮の服を必死に握り締めていた。

「えーっと・・・」

「敏宮(ときのみや、淑子内親王の幼名)は人見知りだが、和宮は人見知りと高所恐怖症だ」

「おにいさまぁ・・・!!」

「よしよし、おいで?和宮」

優しく微笑んだ熙宮に和宮は縋り付き、涙を流しだした。

「高いところが怖かったなんて、知らなかったよ」

歓宮は苦笑しているが、和宮はなんともいえない気分になった。

「まあ、これに懲りて持ち上げるなどということはしないことだな。嫌われたいなら別だが」

「善処するよ」


歓宮と熙宮が楽しそうに話しているところに、ある人物が駆け込んできた。

「和宮様!!あぁ、帝!!申し訳ございません、私のせいで───」

夕鈴という名の、和宮の女中が。


「夕鈴、僕はまだ何も言っていない。君を叱ってもいないし、咎めるつもりもないよ」

慌てすぎるのも欠点だね、と熙宮は付け足した。

「和宮様!?どうなさったのですかその顔は!!目が赤いというか泣いておられますよね一体何が!?」

弾丸のごとく質問を浴びせる夕鈴に、熙宮がため息をつきながら答えた。

「歓宮が泣かせたんだ」

「歓宮さまが!?一体何故!お二人はもうすぐご婚約なさるのに!!まさか、無理矢理押し倒したりなど───」

「夕鈴、落ち着きなさい!!宮中ではしたない事を叫ばない!!」

熙宮が夕鈴に一括した事で、夕鈴は落ち着いた、が───


「婚約って・・・なんですか?」


熙宮が和宮に最も知らせたくないと思っていたことが、和宮に知られてしまった。