「和宮様!!」
女中がまだひどく幼い少女の名を呼んでいた。
「なぁに?声を荒げてはならないと、宮中の決まりを守ってちょうだい。夕鈴」
「申し訳ございません・・・ですが、和宮内親王様!!」
「言ったそばから、あなたという人は───」
まだ5歳になる少女は、夕鈴と呼ばれた女中よりもしっかりとした性格をしていた。
「たたた、大変でございます!!」
「なにがあったというの?」
「和宮様に、熾仁親王様が謁見をしたいと仰って!!」
嘉永4年───1851年、春のことであった。
「あなたが、和宮様・・・?」
既に16歳の青年となっていた熾仁宮親王と和宮、その年の差は11年。
「そうでございますが・・・」
「小さいのに、とても律儀なんだね」
ふわりと撫でられた頭に、和宮は戸惑う。
和宮の父親は、和宮が生まれる前に亡くなっていた。
また、和宮の近くの男性といえば異母兄だけであった。
ゆえに和宮は決して異性に慣れているわけではない。
「熾仁宮親王様は・・・その、」
「歓宮、です」
戸惑う和宮を愛しそうに見つめながら熾仁宮はいった。
「歓宮と、呼んで下さい」
幼名で呼ばせるということは、和宮を信頼しているということ。
「あなたには、そう呼ばれたいのです」
「ですが・・・」
「良いでしょう?」
差し伸べられた手に、和宮はどうしようもなく戸惑うばかりだった。

