「和宮様、有栖川宮熾仁親王がお見えになられるという前触れが来ましたわ」
「熾仁様が・・・?分かったわ、私が良いと言うまで待たせて頂戴」
「かしこまりました」
和宮は起き上がると着物を正し、十二単を着た。
しばらくして。
「和宮様、熾仁様がお着きになられましたが・・・」
「いいわ、お通しして」
さらり、と開けられた襖の向こう。
心配そうな面持ちをした歓宮が立っていた。
「熾仁様、何用でございましょう」
「和宮様・・・ッ!?」
歓宮はおそらく和宮が起き上がり十二単を着ていることに驚いたのだろう。
事実、和宮は床の上に正座している。
「いえ、夏風邪を召されたと耳に挟みましたので・・・」
「夏風邪、ですか?私は見ての通りいつもと変わりませんが」
「・・・ッ」
歓宮は気付く。
和宮の額に浮かぶ汗と、紅潮した頬。
少し荒い息が、明らかに状態の良くない事を表している。
「私が、来たからですか・・・」
和宮は答えなかった。
「・・・お元気そうで何よりでした。失礼します」
歓宮は静かに辞す───はずだった。
部屋を出る瞬間に一言言うまでは。
「そんなに───」
和宮を振り返る歓宮。
「そんなに、私のことが、
お嫌いなのですか?」
和宮は呆然とし、歓宮は静かに辞した。