君にもう一度逢いたかった。


が、しかし。

和宮からすれば、それはとても嫌なことだった。

(何故、この様な子ども扱いをしてくるの!?)

実際口を開かなければ大人しそうな5才なのだが───

客人など公家の人々と話すとき、当然和宮は御簾越しに会話する。

あちらも平伏しているので、緊張することなど全くといっていいほどなく、余裕綽々と言った所だった。

しかし、御簾越しではなく、しかも視線をいちいち同じにしてくるため、顔が近い。

物怖じしない性格とも言えど、普段は距離もあり相手の顔を見ることはないのだが、距離が短く顔を真正面から見ることになる。

───いつもより、上がってしまうのも無理はない。

「和宮、」

「おにいっ・・・今上帝!ご出席していただいていたのですか!!」

「妹の晴れ姿だよ?見ないわけにはいかないだろう」

「ありがとうございます」

右側の歓宮に嫌悪感を抱きつつも目の前の帝に向かって笑い返す和宮。

5歳児とは思えぬ精神力である。

「和宮様、ご婚約おめでとうございますわ」

「本日も見目麗しくあらせられますのね」

「私の娘も、和宮様のように育ってほしいですわ」

「誠に、その通りですわね」

(・・・嘘つき)

深い深い心の奥底で、和宮は人々の言葉を受け取ってはならないと考えていた。

(そんなこと、思っていないくせに)

ちっぽけな5才の幼女は、まだ何も知らない。

言葉は嘘だけと思う。

本当が存在しない朝廷、

媚び諂う公家達、

取り入ろうとする貴婦人の声、

全部全部、偽物なのだと。

本当がどこかにあることを、

和宮はまだ知らない。