部活の放課後練を終え、片付けをしている時、わたしは赤堀に声を掛けた。
「ねぇ、赤堀ー」
「ん?」
「昨日、駅前行った?」
世間話のように切り出したその話題。
けれど、赤堀は、わたしの問いを聞いた瞬間、焦りと動揺の混じった表情を浮かべた。
「え!?……い、行ってない、けど」
「……そう。いや、なんかクラスの子が赤堀に似た人を駅前で見たって言ってたから」
「……人違いじゃねぇ?」
「ん、そっか。ごめん、変なこと聞いて」
バカじゃないの。
ねぇ、赤堀、本当にバカじゃないの。
嘘つくの下手すぎるんだよ、バカ堀。
あの質問で、アイツが焦ったのも分かった。
驚いたのも分かった。戸惑ったのも分かった。
あのさ、赤堀。
ずっと見てたんだからさ、分かんないわけ、ないじゃん。
片付けはまだ途中だったけど、練習場所である1多をスルリと抜け出した。
赤堀が、わたしを、呼び止めることは無かった。
泣かない。泣かない。泣きたくない。
零れそうな涙をぐっと堪えて、唇を噛んだ。
やだ、やだ。何であんなヤツのために泣かなきゃいけないの。
もう、嫌だよ。
何も、言ってくれない赤堀が、嫌だと思った。バカだと思った。
でも、そんなアイツを、まだ、嫌いになれない自分が一番バカだと思った。
嫌いだ、って言い切れたら良かったのに。
ねぇ、どうして、君のことを、未だにわたしは大好きなんでしょうか。
宮間、って呼ぶ声も。
成崎くんたちとふざけてる時の笑顔も。
卓球してる時の、真剣な表情も。
全部、全部、忘れられないのは、どうして。