県大会を終え、月曜日を過ごした次の日、そう、それは火曜日のことだった。
朝練を終えたわたしと琉依が、自分の席にカバンを置いた時だった。
「えー、やっぱり赤堀くん格好良いじゃん」
そんな、クラスメートの声が耳に入った。
斜め前の席である琉依が、少し心配そうに振り返った。
わたしは笑って小さく首を振ると琉依は頷いて、荷物の整理をし始めた。
そう、正直に言って、そういう会話を聞くのはよくある話なのです。
そもそもわたしと赤堀が付き合っている……のかよく分からないけど、取り敢えず両想い……なのかもよく分からないけど、少なくとも一時期は両想いだったということを知っている人はごく僅かだ。
それにも増して、赤堀はモテる。
他学年のわたしのクラスにもしょっちゅう話題が出るくらいには。
色々焦る気持ちはあるのだけれど、まぁ、赤堀に非はないので、特に何も言ってはいない。
ただ、その日は、それだけで、終わらなかったんだ。
「えー、でもさ、赤堀くんって夏音ちゃんと付き合ってるかもしれないって噂あるよー?」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
「夏音って、麻田?」
「うん、そうそう」
え、何、それ。どういうこと。
筆箱を持つ手が震えて、ガシャンと床に落ちた。
ちゃんと閉めてあったから、中身が散らばることは無かったけれど、拾う気が起きなかった。
「ねぇ、その話、もっと詳しく教えてくれないかな?」
そう言ったのは、わたしじゃなくて、琉依だった。
「あー、琉依ちゃん。琉依ちゃん卓球部だよね。じゃあ、本当のこと知ってる?」
「ううん、ごめん。わたしあんまり赤堀くんと喋らないからさ」
「そっかー残念ー」
「で、さっきの麻田さんのこと、どういうこと?」
琉依たちの間でどんどんどんどん話が進んでいく。
わたしは、足も手も、何も動かせずに、ただ立ち尽くしていた。
耳だけは、その会話を捉えていた。
「何かね、もともと夏音ちゃんは、赤堀くんを好きだったって噂が合ったんだけど、今まで赤堀くん、夏音ちゃんのこと『麻田』って呼んでたんだって。だけど、最近『夏音』って呼ぶようになったらしいし」
あぁ、知ってる。
それは、わたしも聞いた、聞いてしまった。
告白の時は『麻田』って呼んでいた赤堀は、ノートを届けにいったあの日、麻田さんを『夏音』って呼んでいた。
知ってる。そう、わたしも知ってるんだよ。
「それにね、昨日って職員なんちゃら会議で、午後部活無かったでしょ?昨日、わたしの友達が、駅前で夏音ちゃんと赤堀くん見たって言ってたんだー」
ドクン、ドクンと心臓の鼓動が速まっていく。
指の震えは、一向に収まる気配が無かった。
「……人違いとかの可能性は?」
「んーとね、その友達が見た時、ちょうど2人が分かれるときだったんだって。で、夏音ちゃんらしき人は西口に向かって、赤堀くんは東口に向かったらしくて。その子は東口側にいたから、赤堀くんとは近くですれ違って顔見たんだって。だから、赤堀くんは間違いないって」
「……そっか、ありがとう。赤堀くんに聞けたら聞いとくね」
「うん!そしたら教えてねー、琉依ちゃん!」
琉依は小さく頷くと、自分の席に戻ってきて、落ちたままだったわたしの筆箱を拾った。
琉依にまた、心配そうな顔をさせてしまっているだろう自分が、情けない。
カタカタと震える指をギュッと握り込んで、わたしは顔を上げた。
そして、真っ直ぐに言い切った。
「わたし、赤堀に聞くね」
「え?」
「そうやって、噂、聞いてるのに、何も知らないフリはしたくないから」
琉依は、やっぱり不安そうに、わたしを見つめていた。
それでも、何も言わないわたしを見て、はぁ…と小さく息を吐いた。
「……分かった。辛くなったら、ちゃんと言ってね」
「うん、ありがとう」
精一杯強がったわたしの声は、少しだけ揺れていた。
言うまでもなく、その日の授業は、集中出来なかった。
朝練を終えたわたしと琉依が、自分の席にカバンを置いた時だった。
「えー、やっぱり赤堀くん格好良いじゃん」
そんな、クラスメートの声が耳に入った。
斜め前の席である琉依が、少し心配そうに振り返った。
わたしは笑って小さく首を振ると琉依は頷いて、荷物の整理をし始めた。
そう、正直に言って、そういう会話を聞くのはよくある話なのです。
そもそもわたしと赤堀が付き合っている……のかよく分からないけど、取り敢えず両想い……なのかもよく分からないけど、少なくとも一時期は両想いだったということを知っている人はごく僅かだ。
それにも増して、赤堀はモテる。
他学年のわたしのクラスにもしょっちゅう話題が出るくらいには。
色々焦る気持ちはあるのだけれど、まぁ、赤堀に非はないので、特に何も言ってはいない。
ただ、その日は、それだけで、終わらなかったんだ。
「えー、でもさ、赤堀くんって夏音ちゃんと付き合ってるかもしれないって噂あるよー?」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
「夏音って、麻田?」
「うん、そうそう」
え、何、それ。どういうこと。
筆箱を持つ手が震えて、ガシャンと床に落ちた。
ちゃんと閉めてあったから、中身が散らばることは無かったけれど、拾う気が起きなかった。
「ねぇ、その話、もっと詳しく教えてくれないかな?」
そう言ったのは、わたしじゃなくて、琉依だった。
「あー、琉依ちゃん。琉依ちゃん卓球部だよね。じゃあ、本当のこと知ってる?」
「ううん、ごめん。わたしあんまり赤堀くんと喋らないからさ」
「そっかー残念ー」
「で、さっきの麻田さんのこと、どういうこと?」
琉依たちの間でどんどんどんどん話が進んでいく。
わたしは、足も手も、何も動かせずに、ただ立ち尽くしていた。
耳だけは、その会話を捉えていた。
「何かね、もともと夏音ちゃんは、赤堀くんを好きだったって噂が合ったんだけど、今まで赤堀くん、夏音ちゃんのこと『麻田』って呼んでたんだって。だけど、最近『夏音』って呼ぶようになったらしいし」
あぁ、知ってる。
それは、わたしも聞いた、聞いてしまった。
告白の時は『麻田』って呼んでいた赤堀は、ノートを届けにいったあの日、麻田さんを『夏音』って呼んでいた。
知ってる。そう、わたしも知ってるんだよ。
「それにね、昨日って職員なんちゃら会議で、午後部活無かったでしょ?昨日、わたしの友達が、駅前で夏音ちゃんと赤堀くん見たって言ってたんだー」
ドクン、ドクンと心臓の鼓動が速まっていく。
指の震えは、一向に収まる気配が無かった。
「……人違いとかの可能性は?」
「んーとね、その友達が見た時、ちょうど2人が分かれるときだったんだって。で、夏音ちゃんらしき人は西口に向かって、赤堀くんは東口に向かったらしくて。その子は東口側にいたから、赤堀くんとは近くですれ違って顔見たんだって。だから、赤堀くんは間違いないって」
「……そっか、ありがとう。赤堀くんに聞けたら聞いとくね」
「うん!そしたら教えてねー、琉依ちゃん!」
琉依は小さく頷くと、自分の席に戻ってきて、落ちたままだったわたしの筆箱を拾った。
琉依にまた、心配そうな顔をさせてしまっているだろう自分が、情けない。
カタカタと震える指をギュッと握り込んで、わたしは顔を上げた。
そして、真っ直ぐに言い切った。
「わたし、赤堀に聞くね」
「え?」
「そうやって、噂、聞いてるのに、何も知らないフリはしたくないから」
琉依は、やっぱり不安そうに、わたしを見つめていた。
それでも、何も言わないわたしを見て、はぁ…と小さく息を吐いた。
「……分かった。辛くなったら、ちゃんと言ってね」
「うん、ありがとう」
精一杯強がったわたしの声は、少しだけ揺れていた。
言うまでもなく、その日の授業は、集中出来なかった。