後輩男子に惚れちゃいました。

「凄いなぁ……」

琉依は大島君が向かった方向から目を逸らさずに、ただ小さく呟いた。

人の気持ちは、本当に難しい。
相反する気持ちを、いくつもいくつも抱えている。


それを、ああやって、いとも簡単に解きほぐしてしまうのは、やっぱり、大島君が優しいからなのかな。


「うん、凄いね、本当に」


途切れ途切れに言葉を紡ぐと、琉依は小さく笑った。


「頑張りたいね」

思わず、そんな言葉が口から出てきた。

そして、そんなわたしの言葉を聞いて、琉依はまた小さく笑って、呟いた。


「頑張ろうね」



その笑顔はとても自然で柔らかくて。あぁ、いつもの琉依だ。そう、思った。








 

―――――結局、わたしたちの団体戦は、北信越には行かれなかった。

今まで北信越への切符を手に入れ続けていた強豪校は、やはり伊達では無かったのだ。


それでも。

一次リーグを2位で突破し、二次リーグで強豪校へ2-3まで粘り、結果県ベスト8で終わった今回の大会に、悔いは、残らなかった。


「……正直、高原(タカハラ)がここまで来るとは思いませんでした」


相手である強豪校の監督が、わたし達のチームの顧問にそう言ったのを、わたし達は、しっかりと聞いてしまっていた。


試合をするフロアを後にして、ギャラリーへと向かう階段を上りながら、わたしは独り言の様に言葉を落とした。

「夏は、勝とうね」

と。


「もちろん」

と、チームメイトが返してくれた言葉が、嬉しかった。とても、とても。


今回の結果に、悔いは、ない。


「悔しい、ね」

誰かがそう言ったのを、きっかけに、涙が止まらなくなった。



悔しい。

悔しい、悔しいよ。

悔いはない。後悔は、ない。だけど、負けた悔しさは、どうしたって誤魔化せないんだ。


皆で、ギャラリーの影になる小さなロビーで、ただ、ただ涙を落とし続けた。

「頑張ろうね」
「頑張ろうね」

って、何度も何度も、皆で繰り返しながら。




―――そうして大会1日目、団体戦が終わった。

顧問から聞くところによると、男女ともに県ベスト8に入った高原は、大会本部では『番狂わせ』だと大分話題になっていたらしい。

何だか少し失礼な気もするが、それでも、それを聞いたわたし達は泣き腫らした目を細めて、笑っていた。



ただ、『番狂わせ』がここで終わらないなんてことを、おそらく誰も予期していなかったのではないだろうか。


たった1人、彼、大島君だけを除いて―――。