後輩男子に惚れちゃいました。



体育館に挨拶をしてから、中へと入った。

補助員の学校によって、既に卓球台は準備されていた。


北信、中信、東信、南信の4つの地域に分かれているこの県は、練習台もその4つで分けられているため、わたしたちは北信の練習台へと向かう。



赤堀たちは県大会には出ないから、ギャラリーへと上がっていった。



防球フェンスの近くにエナメルバッグを置いて、ラケットとボールを取り出す。



意味もなく、ラケットでボールを跳ねさせる。

そっとボールをフロアに落とすと、コン、と柔らかい音がした。


うん、大丈夫、割れてない。



「琉依、練習しよ?」

「・・・うん!何か緊張しちゃうなぁー」

そう言いながら笑った琉依の笑顔は、少しだけ緊張で強張っていた。




練習を始めても、琉依の調子は、あまり良くなかった。

それを琉依自身、自覚してしまっているから、焦っているように見えた。

ことごとく、琉依のドライブはオーバーしていた。


琉依の表情も、少しずつ曇っていく。


他のペアと練習を交代した後、琉依はわざわざこちらへと向かってきた。


「卯月、ごめん・・・、どうしよ、全然上手くいかない」


泣きそうな声で、琉依はそう言った。




どうしよう、何か、言ってあげたい。

だけど、何を。何を、言えばいいの。





「平林」

突然、第三者の声が落とされる。

「え」

琉依が顔を上げた瞬間、名前を呼んだ彼が、持っていた組み合わせ表で琉依の頭を軽く叩いた。


「平林まで、何いってんだよ」

「・・・大島君」


口調とは反対に、大島君は温かい笑顔を浮かべていた。


「ちゃんと、サーブ入ってるじゃん。ツッツキもコース狙えてるし。

ドライブの調子が悪くても、平林なら他の技術でちゃんとカバー出来る。


もし、試合でサーブが一本も入らなくて、相手のサーブが全然取れなくて、ラブゲームされたら慰めるから心配すんなよ」


ふざけたようにそう言うと、琉依の表情にも笑顔が浮かんだ。


「・・・うん、そうだね。

ラブゲームは嫌だから、うん、頑張る。ありがとう!」


琉依の笑顔を見て、大島君もまた目を細めた。



「大島ー!ちょっといいか」

「あ、今行くー」

部長に呼ばれた彼は、明るい声で返事をして、そっちへと向かっていった。