「・・・ちゃん、卯月ちゃん?」
呼ばれた名前で、はっと我に返った。
理科の席で同じ班の子が、不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。
「っ、ゴメン!ちょっと、ボーっとしてた」
何故か、手に持ったままのノートが気まずくて、さっと引き出しにしまった。
「・・・具合悪いとかじゃないよね?」
私が「うん」と創った明るい声で頷いた。
「そっか、良かった。
えっと、じゃあ、フラスコ持ってきてもらえる?」
いつの間にか、机の上には色々な実験器具が集まっていた。
「分かった」
笑顔でそう言って、フラスコを取りに行く。
後から、自分がちゃんと笑えていたのか、心配になった。
―――届けに行こう。
不意に、そう思った。
あの、ノートを、届けに行こう。
赤堀を、好きだといったあの子に。
―――知りたかったんだ。
どんな子なのか。
最低な、理想。
出来ることならば、麻田夏音という女の子が、嫌な子だったらいい。
赤堀をとられないっていう、自信が持てるような。
だって、怖いんだ。
そう考えてしまってから、自分が、もっと嫌になった。
けれど、そう思ってすら、願ってしまう自分がいた。

