けれど、そんなことは微塵にも関係なく、いつもと同じように時は流れる。
いつもと同じように、授業を受け、ノートを取り、琉依と話していただけだったはずなのに。
それは、4時間目の理科の授業だった。
普段私達が使う第2理科室での理科。
「はい、じゃあ、今日は還元についての実験をするぞ。
机の上を片付けて、実験の準備しろー」
理科の先生の言葉に、私は思わず溜め息をついた。
実験はあまり好きじゃない。
そもそも中学生がやる実験なんて、限界というものがある。
学校の実験器具だって、そんなに状態が良いわけでもないから、望んだ結果が出ないことも多い。
だから、私は実験が好きじゃない。
それならば、結果や方法をノートにまとめる方が断然好きだ。
分かりやすく、楽しく、見て一目で分かるような、そんなノートを作るほうが。
小さく溜め息を吐きつつも、教科書やノートを机の引き出しに突っ込む。
「・・・あれ」
何も入っていないはずの引き出しの中で、指先が何かに触れた。
一度自分の荷物を机の上に置きなおしてから、その『何か』を取り出した。
「っ」
『1-2(2) 麻田 夏音』
綺麗な整った字で書かれたその文字から、目が、離せなかった。
空色のリングノート。
きっと、単なる忘れ物なんだろう。
前の時間にここを使ったんだろうか。
そう、単なる忘れ物なのに。
それは、ぎゅっと私の心を締め付けた。

