大島君は私に小さく頷き返すと、1多のドアを開けた。
その後ろへついて、私も1多へと入った。
台はおおよそ準備されていて、琉依も既に来ていた。
「あ、卯月、おはよー」
「うん、おはよ」
「良かった、元気そうで」
そう言って、甘く笑う琉依は、私から見ても本当に可愛くて、少しだけ羨ましく思ってしまった。
蛍光灯の無機質な光が、琉依の綺麗な髪を滑る。
・・・もしも、私が琉依くらい可愛かったら、もっと自信を持てたのかな。
赤堀のことも、信じてあげられてたのかな。
好きだよ、好きなのに。
信じ切ることの出来ない、弱さが、嫌だった。
「・・・卯月、大丈夫?具合悪い?」
琉依の声で、我に返る。
ダメだ、また、考えてる。
「ううん、大丈夫。ちょっとボーっとしちゃった」
「・・・赤堀、君?」
探るわけでもなく、問い詰めるでもない、真っ直ぐな瞳で、琉依は呟いた。
あぁ、もう、どうして。
どうして、私は、ポーカーフェイスというものが出来ないのだろう。
もしも、感情を外に出さないでいられたら、きっと、琉依や大島君に心配そうな表情をさせてしまうことも無いのに。
「・・・うん、まぁ、ね。でも、大丈夫だよ」
「杞憂だと思うよ、私は」
琉依は横目で赤堀を見ながら、そう続けた。
そうだといい。と思いながらも、思い切れていない自分が確かに存在していた。
――その日の朝練習は、あまり、集中できなかった。

